HeDis's Neta

ネタ日記やSSなど

タカシとお父さん「よく分からない疫病」

宇宙暦59年12月19日に疫病が流行った。
重症化する人もいれば、全然自覚症状がない人もいる。そして自覚症状がないにも関わらず、後遺症に苦しむ人もいるという。なんとも不可解な疫病だ。

そんな状況にウンザリしながら父は息子のタカシに話しかけた。

父「なぁ、タカシ…。どっかに遊びに行かないか?」
タカシ「えっ?無理でしょ?こんなご時世に。どこに行くんだよ…?」

タカシはいつものように父の言っていることを話半分に、テレビを見ながら言った。テレビは毎日同じように、専門家が深刻そうな表情で疫病について語っている。

父「どこって、もうこの際、どこでもいいんじゃないか?」
タカシ「ダメに決まってんでしょ。感染したら大変じゃん。」
父「でもほら、おれら大丈夫だろ♪」
タカシ「なんでそう思うの…?」
父「だって、ワクワクチンチンしたからな♪」
タカシ「ワクチン二回打ったからって、その表現やめてくれます!?」
父「ワクワクチンチンの何がいけないんだ!?」
タカシ「いろいろアウトでしょ…」
父「タカシ…。父さん…悲しい。かなC!」

父は両手でアルファベッドのCを模したをポーズでタカシの反応を待っていた。しかし期待通りの反応はなく、数秒間の空白が流れた。

タカシ「まぁでも、確かにどこかに行けるといいよねぇ。」
父「そうだなぁ。人がいない場所なら良いんじゃないか?」
タカシ「例えば?」
父「明日父さんがリサイタルするから、その会場とか?」
タカシ「自分のイベントかよ!えっ、といういかよくやってんの!?」
父「よくやってるよぉ♪土管のある公園でな♪無理やり友達誘ってな♪」
タカシ「ジャイアンか!」

父さんがリサイタルをしているというのは、おそらく嘘だろう。嘘と言ったら語弊がある。これは冗談だ。父はいつもよく分からない冗談を言うのだ。冗談と嘘の境界というのは難しい。ただ、父と過ごして感じたことは「事実とは異なるが人を傷つけず場を和ますのが冗談」だということだ。

そんなことを思いながら、タカシはボーッと空を見上げた。

タカシ「まぁでも、本当、世界中にこんな疫病が流行ってるということは、安心なのは、もう宇宙しかないかもねぇ。」

父はそんなタカシを見て、頷きながら言った。

父「まぁ、でも宇宙も大変だと思うぞ?」
タカシ「なんで?」

父はここぞとばかりに言葉を並べた。

父「今回の疫病は、宇宙人が今の疫病をばら撒いるかもしれないじゃん」
タカシ「宇宙人なんていないでしょ?」
父「タカシは、本当にそう思うのか」
タカシ「当たり前だろ」

父は空を見ながら、ため息にもにた一呼吸をおく。

父「お前が宇宙人なんだよ」
と言うと「なんでだよ」と、タカシは笑いながら言った。

父「タカシは東京生まれじゃん?」
タカシ「まぁね」
父「ってことは、東京人なわけだ」
タカシ「そうなるね」
父「東京生まれってことは、日本人じゃん?」
タカシ「まぁ、そうだね」
父「日本人ってことは、アジア人じゃん?」
タカシ「アジア人って意識はあまりないけど、そうなるね」
父「アジア人って地球にいるから地球人じゃん?」
タカシ「地球に住んでるやつはみんな地球人になるだろうね」
父「で、地球って宇宙にあるから、おれらみんな宇宙人じゃん♪」

なんだこの屁理屈はと思いながら、屁理屈と思う捉え方に柔軟性がないような気がしてきた。

父「タカシは宇宙に行けば救われると思ってる?」
タカシ「妄想だったり仮定の話だけどね」
父「なるほどねぇ…。宇宙も大変だぞ。例えば、宇宙食が味気ないとする。」
タカシ「うん」
父「そこで、塩ふってみ?宇宙船の中に塩が舞い散るんだぞ?塩害凄まじい!」
タカシ「塩ふるなよ!」
父「分かった分かった♪じゃあ、宇宙食に醤油をドバーッと」
タカシ「かけんなよ!」
父「いくつもの卵を」
タカシ「割るな!」
父「タカシは宇宙の厳しさを分かってないな♪」
タカシ「はいはい、もういいよ。」

タカシは呆れたように言い流した。タカシと父はボーッと空を見ていた。空はいつしか夜空になり、星が満ちていた。そんなやりとりができる親子と言うのも悪くないのかもしれない。そう思っていると、父がふと話しかけてきた。

父「タカシは本当に宇宙が安全だと思うのか?」
タカシ「えっ、だって疫病が流行っている地球よりは宇宙の方が安全じゃん」
父「塩とかふれないのに?」
タカシ「そこはどーでもいいって…」

タカシ「じゃあ、おれはもう寝るよ。」
父「そうか♪お父さんはやることがあるから、もう少し起きてるよ」
タカシ「分かった。じゃあ、お休み」
父「アディオス♪」

タカシが部屋に戻り、寝入ったのを確認すると父は地下深くにあるコクピットに乗り込んだ。

父「さぁ、宇宙人VS宇宙人!疫病退治と行きますか♪」

民家から発射された宇宙船が、一線の光となり、星空の中に消えていった。