HeDis's Neta

ネタ日記やSSなど

人として避けようもないノンフィクション

自転車をこぎながら山へ向かう。 

木漏れ日がアスファルトを斑模様に照らし、斑模様は風で揺らめく。

雨上がり。

汗をかいているアジサイ

もう少しでヒマワリが咲く季節になる。

 

僕は授業が終わると、カバンを担ぎ急いで自転車に乗り、いつものあの山へと向かう。

幼なじみのT子は、もう既に山へと着いている頃だろう。「幼なじみ」というか「腐れ縁」というか、「呪縛」というか。僕は昼休み時間に、教室でよくボール投げをしたり鬼ごっこをしている。 

そんな感じで、とにかく教室を動き回るんだけど、なぜか僕の机の位置が微妙に変わっていて、そのおかげで僕は机にスネをよくぶつける。

T子はそんな僕を見て爆笑していた。「お前がやったんだろう!」というと、T子は「たまたまでしょ」と笑いながら言う。

 

うん、やっぱり T子とは「呪縛」めいた関係なんだと思う。そんなことを考えながら、肩で息をしながら急な坂を上り、いつもの場所へと着いた。

 

「遅いぞぉー。いま何時だと思ってんの。カップラーメンが10個できあがる時間を超えてるじゃない。なんでそんなに遅刻するのよ」と、呆れたようにT子が出迎える。

 

「いやぁ、それは…。」

「なによ?」

「相手が、まさかの第3形態目の変身をしまして」

「あんた誰と闘っていたのよ 笑。鼻毛増え過ぎて窒息して死ねば良かったのに 笑。」

「なにその素敵なやられかた 笑。」

 

T子は男勝りで、そんな性格のおかげで気楽に付き合えた。たぶんお互いそんな気持ちなのだろう。

 

「そういえば、新しい必殺技を考えたわよ。」

「えっ、必殺技?」

「そう、必殺技。ほら、山って危ないし、あんた弱すぎるじゃん。私が仕組んだ絶妙な机のポジショニングでスネを…。」

「スネを…。ふ~ん。」

「よく机を倒して中身をぶちまけたりしなかったわね」

「そんな強打したら死ぬって 笑。ってか、やっぱりあれはお前が」

「そんなことより必殺技を考えたの。行くわよ。見てなさい。」

 

「T子ビーーーーム!」と、T子はおもむろに懐からレーザーポインターを取り出し点灯させた。そして僕の目に当てつける。鋭く赤い光の線が、僕の目に直撃する。

 

「うわ、やめろ!眩しい!」

「へへん。すごいでしょ」

「いや、全然」と、僕は思う。というか、レーザーポインターを目に当てるって、下手したら失明するじゃないか。でも、そんなことを言ってもつまらないので、僕はそれにのっかる。

 

「甘いな。僕はそれよりすごいのができるよ。『T子ビームのバージョンアップ版』というところかな」 

「へ~。じゃあ、やってみなさいよ。」とT子が言ったので、僕はニヤっとしながら、その銀色をしたレーザーポインターを受け取った。

 

「ミラクルT子ビーーーーム!」

 

と、言いながら僕はT子にレーザーポインターを当てる。そして僕は、すかさず技の解説を始めた。

 

「解説しよう!『ミラクルT子ビーーーーム!』とは、レーザーポインターで相手の目をくらますと同時に、スイッチのON・OFFを繰り返すことによって、自分の親指が全治3週間の腱鞘炎を起こす!そしてさらに!レーザーポインターを持っている手が、極度の金属アレルギーを引き起こしてしまうという、諸刃の技なのだ!」

 

「自爆系かよ!笑」 

「さすがT子 笑。今日も良いツッコミだね 笑」

「おかげさまで 笑」

 

T子は「あと、こんな感じでやるのも良いんじゃない」と、言いながらレーザーポインターを振りながらチカチカと光らした。

 

「どういう意味?」

「『またね』という意味よ。こんな感じで合図を考えるのも良いなと思ってね」

「ふ~ん。面白そうだね。二人でいろんな必殺技や合図を考えようよ。必殺技は本当に使えるやつをさ。で、その技で魚を釣ったり、セミを捕ったりしようよ。あっ、あと必殺技を考える場所が必要だよね。うん、秘密基地も作らないとな。なんか懐かしいな~。小学校3年生の時はよく作って遊んだりしてたな~。なっ、そんな感じで計画立てようぜ!」

 「…うん。やりたいやりたい!」

 

遠くからせわしく草花が揺れ、段々と近づき、

それと同時に風が流れ込む。

風は会話に間を開けるように流れ込み、

そしてT子は落ち着いた表情で呟いた。

 

「必殺技か~。『必ず殺す技』で、『必殺技』だよね」

「えっ、あぁ。うん、そうだね」と、僕が言った後に、しばらく間を置いて、またT子が話し始めた。

「殺すとか殺されるとか私には全然関係のないことで、それは想像の中の物語だけだと思っていた。そう、フィクションの中だけ。もちろん悲惨な事件は、毎日この世界中で起こっているけどね。でも、そういう意味じゃなくて、私も自然の流れの中で、殺したり殺されたりするんだよね。きっとそれは、フィクションじゃなくてノンフィクションなの。人として避けようもないノンフィクションなの」

 

「フィークション!」「ふぅ。フィクションなだけに良い発音で『フィクション』とクシャミしてしまったぜ。さすがおれ、偏差値4桁なだけあるな」

 

「偏差値4桁って、どんな計算方法よ! 笑」というツッコミを期待していたけど、T子は完全に無視して話し続ける。

 

「校長先生の話しを覚えている?ほら、あの『小さな死』の話よ」

「新しく来た校長って、すごいハゲだよね~。時々挨拶でギャグを言うけど、あれ本当すべってるよね。すべるのは頭だけにしてほしいよね。で、なんだっけ?」

「もういいよ。あまり覚えていなさそうだし。あんた何かと気付かないし 笑」

「気付かないって?あっ、思い出した!机を仕組んだのはお前だろ!?」

「別に良いじゃん」

「良くねぇよ!なんでそんなことするんだよ!?」

「うるさいわねぇ…。スネを治すついでに頭も治せば?という私の粋な計らいなの!少しはありがたく思いなさいよ」

「お前のそういうところ、本当にむかつくんだよ!」

 

T子は何も言わずうつむき、どことなく悲しい表情をみせた。僕は言い過ぎたかなと思いながらも、怒鳴った勢いをどうしようもなく、ただ黙るだけだった。

 

日は朱色を深めていた。

風が吹き、草がサワサワと音を立てる。

そんな無機的な音が、気まずい時間の流れを強調する。

 

「私、このあと用があるの。早いけど帰るわ」

「あっそ。じゃあな」と、僕が言ったらT子は「うん…」と言い、山を下る道に向かった。そして僕の数メートル先で振り返り、レーザーポインターを左右に振りながらチカチカと光らした。「またね」という意味だ。「うるせぇ。早く帰れよ」と言うと、T子はもう振り返ることなく帰って行った。

 

僕はT子が帰ると山肌に寝っ転がり、ため息をついた。なんでT子はあんなことをしたんだろう。考えても考えても分からない。ネットリとした、そしてものすごく気持ちの悪い黒ずんだオイルが、僕の心臓にまとわりつく。

 

もう一度、深くため息をつく。

 

まぁ、いいや。そんなことは明日T子から聞こう。ついでに言い過ぎたから謝ろう。これから帰ったら必殺技を考えて、秘密基地の計画も立てて…。あと、僕もレーザーポインターを買わなきゃな。

 

山を下る頃には、辺りはすっかり暗くなっていた。

さっきまで煩わしく感じていた虫の音が、今は涼しさを際立たせている。

虫の音色をまといながら、風は流れていた。

 

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 今日はいつもより早く起きた。今日は必殺技と秘密基地の計画を、T子と学校で練らないとな。僕は昨日の夜に、その計画をノートに書き留めていた。ノートとレーザーポインターをカバンにしまい、自転車に乗って学校に向かった。

 

「おはよー。新しい朝!希望の朝!喜びに胸を開き、大空をあおぎたい今日この頃!いかがお過ごしでしょうかー?」と、ハイテンション気味に教室に入る。クラスから「ラジオ体操かよ」と、ドッと笑いが沸き起こる。

 まだT子は学校に来ていないようだ。さっさと仲直りして、一緒に計画を立てたいんだけどな。と、そんなことを考えながら、ノートに秘密基地の設計図を書き込む。

6年生なんだから、3年生が作るようなものじゃだめだ。他の友達が見ても「すげぇー」というやつを作ってやろう。

しばらくノートに図を書いていると、先生が廊下からやってきて「はーい、じゃあ席について~。出席確認するぞー。」と、いつものセリフを良いながら教室に入ってきた。T子はまだ来ていない。

「会田、相場、牛越」と、先生はテンポよく出席を取る。そして算数、理科、社会、体育、国語の授業をこなし、いつも通り授業が終わった。

 

いつも授業が終わると、山に直行している。だけど今日はT子が来ていないから、山に行っても遊ぶ相手がいない。「今日は何をして遊ぼうかなぁ」と席に座りボーッと考えていたら、友達が教室に入ってきて話しかけてきた。

 

「校庭でサッカーやろうぜー」

 

どうせ今日は山に行っても暇をするだけだ。

 

「おー、いいぜいいぜー。どうせ今日は暇だし」 

「おっ、本当か。サンキュー助かるよ。お前ポジションどこがいい?」

「じゃあ、僕はドクターストップをかけられているけど、そんなの気にせず試合出ちゃうエースストライカーのポジションで」

「どんなポジションだよ 笑」 

「じゃあ、オランダ代表で」

「国籍変えるのかよ 笑」

「じゃあ、1丁目の3番地代表で」

「範囲狭すぎだろ 笑」

「冗談だよ冗談。先に行ってて。まだ帰る準備していないから」

「よしっ、じゃあポジション決めて早く来いよ!校庭で待ってるからな!」

 

友達はそう言うと、走って校庭に向かって行った。僕は机から宿題で必要な教科書だけを抜き取り、カバンの中に詰め込む。校庭ではみんなが待っていて、チーム作りをしているところだろう。僕は急いでカバンを背負おうとした。その瞬間、カバンが机の足にひっかかり机が倒れ、机の中の物は全て撒き散らされた。

 

「うわっ、最悪…」と、独り言を言いながら机を立て直し、教科書や定規などを机の中に入れる。

机の中にあった物を元に戻していると、見かけない封筒があった。封筒には可愛いらしいアジサイとヒマワリのイラストが描かれてる。しかも手書き。だけど結構上手く描かれている。梅雨と夏の間の時期だから、このイラストなのかな。「なんだろ、これ」と思いながら封筒開け、手紙を取り出す。

 

手紙を一行読んだ瞬間、僕は頭の中が真っ白になり職員室に駆け込んだ。

 

「先生!なんで今日T子は学校休んだの!?」

「あぁ、T子は家庭の事情で転校したんだよ。確か今日の19時の便とか言っていたなぁ。今日までは学校に来ると聞いていたんだどな。いろいろ準備があって忙しかったんだろう。転校先はカナダだからな。先生も今日転校のことを伝えようと思っていたんだが」

 

先生の声が遠のき僕の心の声が頭を駆け巡る。聞いてない聞いてない聞いてない聞いていない聞いていない聞いていない。そんなこと全然聞いていない。

 

魚を釣るって言ったじゃないか。

セミを捕るって言ったじゃないか。

秘密基地を作るって言ったじゃないか。

「またね」って合図したじゃないか。

 

 別れる時くらい、ちゃんと挨拶して行けよ。

しかもカナダって、最後の別れになるかもしれないじゃないか。

 

T子が急にいなくなった。

T子が急に死んじゃったような錯覚に陥った。

 

 「T子が死んだ」

 

「死」という言葉に、僕の頭の中はめまぐるしく反応した。

 

頭の中の古い歯車が動き出す。

歯車はガタコトと音を立て、独りでに動き出す。

歯車が思い出を引っ張り出す。

 

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去年の卒業式。僕はまだ5年生。

式台に校長先生が立って話し始める。

 

 

「卒業というのは、ある意味『別れ』を意味します。

皆さんが今まで別れた人の中で、それきり会っていない人はどれほどいるでしょうか。

恐らく生涯会うことがない人もいるのではないでしょうか。

そう、『別れ』は『小さな死』なのです。」

 

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一瞬だけの歯車の稼働。

でも、それは的確に僕の心を揺さぶった。

 

T子が言っていた「校長の話」は、これだったんだ。

机を倒させるようにしたのは、この手紙があったからなんだ。

 

手紙くらい普通に渡せよな。

「私も自然の流れの中で、殺したり殺されたりする」って…馬鹿野郎。

僕がT子を殺すわけないじゃないか…。「小さな死」なんて迎えさせるわけないじゃないか…。

 

だけど考えてみたら、僕はT子の電話番号もパソコンのメールアドレスも知らない。いつも会うし一緒によく遊ぶから、何かあればその時に伝えることができる。だから今まで連絡に困ったことはなかったのだ。

 

結局、僕はT子が言った「人として避けようもないノンフィクション」を受け入れざるを得ない。それを拒絶したがるように、脳はフル稼働する。

 

19時の便…。

空港までは少し遠い。

親の帰りを待って、車で送ってもらうと間に合わない。

電車賃も足りない。

自転車を全力でこいで行けば、およそ3時間。

ギリギリ間に合う。

上手く行けば、ロビーでT子に会えるかもしれない。

 

僕はサッカーの誘いを無視して、自転車にまたがり、全力でペダルをこぎ始めた。

 

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辺りはもう暗く、滑走路の点滅が煌めいている。

シートはお世辞にも座り心地が良いとは言えないわね。

ぐっすり眠れるか心配だわ。

 

初めての転校が海外。

嬉しいような寂しいような。

そしてそれ以上に後悔が残る転校。

 

「皆様、この飛行機は間もなく離陸いたします。シートベルトをもう一度お確かめ下さい」と、無機的なアナウンスが流れる。

 

私はなんであんなことを言ってしまったんだろう。

私はなんで素直に手紙を渡せなかったんだろう。

私はなんてバカなんだろう。

 

事故を装って机が倒れるようにそむけた事に、後悔と自分の小ささを感じた。そんな考えが頭の中をぐるぐると駆けずり回り、目はネガティブな潤いに浸される。

 

「ねぇ、お母さん。『別れ』ってなんだろうね」

「別れ?あぁ、そういえば今日が最後の学校だったわよね。あなたが『今日までは学校に行きたい』って言っていたから、無理して飛行機の便を遅らせたのに…。学校に行かなくて良かったの?」

「うん、別に良いよ。私バカだから。本当にバカだから」と、声にならない声で言う。

 

私のバカ。最後の最後ぐらい素直になれば良かった。

アイツのバカ。最後ぐらい笑顔で別れさせてやってよ。

そんなことを思えば思うほど、また目は残念な潤いに浸される。

そして目の前がすりガラス越しの世界になる。

 

 ふと窓を見ると、滑走路の点滅は滲み、飛行機の羽根に着いてる赤いライトは、滲みながら左右に揺れている。

 

「左右に揺れている?」

 

飛行機の羽のライトは左右には揺れない。よく見ると、それは飛行機のライトじゃなくて、空港のロビーからの光だった。そしてそれは、左右に振れながらチカチカと光っている。

 

「お母さん!ちょっとどいて!荷物入れから私のバッグを取るから!」

 

「えっ、もう離陸するのよ」という母の声を無視してシートベルトを外す。フライト・アテンダントは何か言っていたけど、そんなのはどうでもいい。私はバッグを取り出し、元の席に座った。 

私は急いでレーザーポインターをバッグの中から探す。いつものポケットの中に入れたと思っていたのに、全然見つからない。飛行機の鼓動は徐々に強くなり、唸るように加速していく。

カバンの中身を全部引っ張り出すと、それはカバンの一番奥底にあった。急いで取り出し、スイッチのON・OFFを繰り返し、左右に振る。何度も何度も、腱鞘炎になりそうなほど「またね」の合図をする。

合図を送っているはずなのに、目の前はモザイクがかかったようにグシャグシャで何も見えない。

 

「ちょっとT子!どうしたの?」

「うん、私やっぱバカだよ。」

 

離陸して空港が見えなくなるまで、何度も何度も光を左右に揺らし点滅させた。

ロビーの光も、ずっとずっと左右に揺れながら光っていた。

 

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結局ロビーでT子に会うことはできなかった。

離陸間際の飛行機の窓に、左右に振れる光。

僕はそれを見ることができた。 

それがT子の合図なのか分からない。

それでも、僕はずっと合図を止めなかった。

飛行機が見えなくなっても、ずっと止めなかった。

「小さな死」を、少しでも光の点滅で繋ぎ止めたかった。

 

山で最後にT子がやった「またね」の合図。

あの時に返せなかった合図を、僕はちゃんと返せたのかな。

目頭が少し熱くなる。

僕はまた自転車に乗り、家に向かった。

あまりに遅い帰りだったので、お母さんにこっぴどく叱られた。

そんな言葉を横に流し、僕は部屋に入る。

そして封筒から手紙を取り出し、ゆっくりと読み返す。

 

「スネを痛めた君へ

 

私はカナダに行くことになりました。きっと街へ出ると日本語は通じないし、学校の勉強について行くのも大変だと思います。

あと教室に絶妙なポジショニングを取れる机がないのも残念です(笑)。

今だから言えるけど、机を微妙に変えてぶつかるようにしていました。ごめんなさい。

私の「必殺技」を伝授してあげたということにしておいてね(笑)。きっとあの山で使えると思います」

  

いや、絶対使えねーよ。

使うシチュエーションを想像できるあんたはすげぇーよ。

と、思いながら、僕はまた手紙を読み続ける。 

 

「追伸」

 

って、もう追伸かよ。はぇーよ。

というか今のが本題かよ。

と思いながら、追伸に目を向ける。 

 

「最後に山でいろんなことを約束しておきながら、急に転校しちゃってごめんなさい。楽しんでいるときに転校の話しは言いにくかったし、私も必殺技を考えたり魚を釣ったりセミを捕まえたり、秘密基地を作りたいって気持ちがあったんだよ。ほんとにね。だから無理って分かっていても、無理って言いたくなかったし、無理って思いたくなかった。また同じように明日が来たならって。

だから私が日本に帰ってきたら、『明日』の続きをしようよ。私が日本に帰ってくるのがいつになるか分からない。だけど、それが30歳だとしても 40歳だとしても100歳だとしても遊べる気がする。ほら、分かると思うけど、私はバカなことを本気でやるのが好きだから(笑)」

 

T子と僕がやっていたのはバカなことだったのか(笑)。

…うん、でも確かにそうだ。僕も一緒にバカをやれるT子と遊ぶのが楽しかった。

 

「最後に、あの山で言いそびれたことがあるんだ。転校が決まったときから、ずっと言いたかったこと。 

私はあなたを自然の流れの中で殺したりはしません。だから私の中であなたが「小さな死」を迎えることはありません。

だからあなたも、私を自然の流れの中で殺し、「小さな死」を迎えさせるようなことはしないでね。心がつながっていれば「小さな死」は訪れないと思うから。

じゃあ、これで本当に最後。私の連絡先を記載しておきます。いつでも連絡してね。」

 

転校前日の事が書かれている。T子が山で「用がある」と言い、さっさと帰った理由は手紙を書き直すためだったんだ。

 

手紙の最後には、住所と電話番号とメールアドレスが記載されていた。

  

手紙の中には普段の印象とは全く違うT子がいた。

そして普段のT子と接する気持ちとは全然違う気持ちの僕がいた。

 

 

 

自然の流れ。

無意識の流れ。

そんな流れの中で

「小さな死」は

少しずつ少しずつ広がっている。

その人を生かすか殺すかは

その人次第なんだ。

 

頭の中の歯車が動き出す。

 

「私も自然の流れの中で、殺したり殺されたりするんだよね。きっとそれはフィクションじゃなくてノンフィクションなの。人として避けようもないノンフィクションなの」

 

 机の引き出しから鉛筆を取り出し、返事を書く。

「小さな死」という「人として避けようもないノンフィクション」。 

それを「フィクション」に変えるために。

 

 

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